1年間の医療費がかさめば、確定申告の医療費控除で、すでに納めた税金を少しでも多く還付金として受けたいものです。
家族の中で世帯主以外に所得税を納めている人が複数いるなら、家族の誰が医療費控除で申告すれば還付金が増えてお得になるか調べてみてはどうでしょうか?
2017年からは医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制もあります。
ただし、セルフメディケーション税制は従来の医療費控除と併用はできません。
そこで、夫が従来の医療費控除、妻がセルフメディケーション税制と夫婦で医療費控除の申告を分けるのもいいですね!
どのように分けると家族全員でお得になるのか?
今回はその考え方のお話をいたします。
ポイントは、医療費控除額の上限と下限&所得税の税率
家族の誰が医療費控除で申告するとお得になるのかを判断するための2つの表を紹介します。
まずは、「医療費控除額の上限と下限の表」です。
従来の医療費控除 |
|
上限 |
200万円まで |
下限 |
10万円または合計所得金額の5%を超える金額 |
一般的に「医療費控除は年間の医療費の合計額が10万円を超えないとみれない」といいます。
それは下限の「10万円または合計所得金額の5%を超える金額」の「10万円」の部分だけが、伝えやすくわかりやすいので浸透してしまったからですね。
実は、年間の医療費の合計額が10万円を超えなくても医療費控除が受けられる場合があります。
会社員で給与所得しかない方の合計所得金額の見方は、源泉徴収票の「②給与所得控除後の金額」をご覧ください。
1か所の給与以外に所得がなければ、この方の合計所得金額は、492万円です。
492万円×5%=24万6000円
10万円を超えるので「10万円または合計所得金額の5%を超える金額」の「10万円」を選択すればいいだけです。
源泉徴収票の「②給与所得控除後の金額」の金額が、200万円未満であれば「合計所得金額の5%」を選択したほうが、多くの医療費控除額を使えるということです。
例えば、「②給与所得控除後の金額」の金額が、180万円の方は
180万円×5%=9万円
下限が9万円なので、10万円の方より1万円多く医療費控除額がみれます。
ただし、医療費控除額が多ければ、必ずしも還付金がたくさんあってお得というわけではありません。
実は、所得税の税率は、所得金額に応じて5%から45%の7段階(平成19年分から平成26年分までは5%から40%の6段階)に区分されています。
課税される所得金額(千円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)に対する所得税の金額は、次の速算表を使用すると簡単に求められます。
所得税の税率表(平成27年分以降)[平成28年4月1日現在法令等]
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円を超え 330万円以下 |
10% |
97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 |
20% |
427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 |
23% |
636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 |
33% |
1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 |
40% |
2,796,000円 |
4,000万円超 |
45% |
4,796,000円 |
申告する人の判断手順とは?
家族の誰が申告するとお得になるかは次の3つの判断基準で考えてみましょう!
1.所得税率の高い人が医療費控除をすると有利である
2.医療費控除額が少ない場合は合計所得金額の少ない人が有利な場合がある
3.年間の医療費自己負担額が210万円を超えたら、210万円を超える医療費額を他の所得納税者が確定申告する
それでは順にみていきます。
所得税率の高い人が医療費控除をすると有利である
所得税率が違うと還付される税金の金額も変わります。
以前、医療費控除の特例になるセルフメディケーション税制の話で所得税率が高い人が申告するとお得ですよってお話していますのでこちらを参考にしてください。
>>セルフメディケーション税制で確定申告!所得で異なる節税効果
医療費控除額が少ない場合は合計所得金額の少ない人が有利な場合がある
先程もお伝えしたように、合計所得金額の少ない人が有利な場合があります。
1年間に支払った医療費の合計額が11万円だとします。
妻の合計所得金額が、150万円
11万円の医療費控除額は夫が申告すると
11万円-10万円=1万円
※下限は10万円または500万円×5%=25万円なので10万円を選択
夫ではなく、妻が申告すると
11万円-7万5000円=3万5000円
※下限は10万円または150万円×5%=7万5000円なので7万5000円を選択
夫の医療費控除額が1万円に対し、妻の医療費控除額は3万5000円です。
同じ医療費でも、妻の方で申告した方が医療費控除額が大きいのでお得になりますね。
同じ所得税率ならば・・・
どういうことかというと、「妻で申告した方が医療費控除額が大きいからOK」と、ここで計算をやめてはいけません。
所得税の税率は、5%から45%までの7段階になっています。
前半の所得税の税率表からで確認してくださいね。
妻の合計所得金額は150万円なので、所得税率は5%
※わかりやすくするため、基礎控除や他の所得控除を考慮に入れていません。
合計所得金額=課税される所得金額とします。
所得税の還付額は医療費控除額×所得税率になります。
妻の医療費控除額は3万5000円、所得税率は5%なので、所得税の還付額は1750円
はじめに、所得税率の高い方が申告すると有利になるといいました。
所得が少ない人が有利な場合があるというけど、今回は、不利になりました。
ここで、例えばですが、この夫婦には、”子供が3人いて、夫の控除対象扶養親族となり、他にも社会保険料控除や生命保険控除などの所得控除がある”とします。
夫の合計所得金額からその所得控除の合計額を差し引くと、夫の課税される所得金額が330万円以下になったとしたら・・・
妻の課税される所得金額は150万円以下なので、所得税率は5%
※基礎控除や他の所得控除を考慮に入れた場合
もうおわかりですね。
妻の医療費控除額は3万5000円、所得税率は5%なので、所得税の還付額は1750円
このように、所得税の還付額は、医療費控除額だけでなく、各自の課税される所得によって、所得税率の高い方が申告するほうが有利な場合と、所得が少ない人が有利な場合とあります。
必ず、各自の所得税額まで計算して夫と妻のどちらで申告すると還付額が多くなるか確認しましょう。
年間の医療費自己負担額が210万円を超えたら、210万円を超える医療費額を他の所得納税者が確定申告する
医療費控除の上限が200万円です。
医療費控除の下限が10万円または合計所得金額の5%を超える金額です。
1年間に支払った医療費の合計額が220万円だとします。
妻の課税される所得金額が、150万円
220万円の医療費控除額上限は夫が申告すると
220万円-10万円=210万円
※下限は10万円または500万円×5%=25万円なので10万円を選択
上限は200万円ですので、210万円のうち10万円は夫で申告できません。
夫の所得税率は20%ですので、還付される所得税は40万円です。
夫が申告できない残りの10万円を妻が申告すると
10万円-7万5000円=2万5000円
※下限は10万円または150万円×5%=7万5000円なので7万5000円を選択
妻の所得税率は5%ですので、還付される所得税は1,250円です。
医療費控除額は、はじめに「1年間に支払った医療費の合計額」から「保険金などで補てんされる金額」を差し引かなくてはなりません。
ですから、1年間に支払った医療費の合計額が220万円ということ自体、あまりないかもしれません。
参考になるのはほんの一部の方かもしれませんが、逆にいうと、医療費控除は210万円を超えない限りは分ける必要がないということになります。
セルフメディケーション税制の選択ポイントも、控除額の上限と下限!
医療費控除には控除額の上限と下限があるように、セルフメディケーション税制でも控除額の上限と下限があります。
従来の医療費控除とセルフメディケーション税制には控除額の上限と下限はこちらです。
従来の医療費控除 |
セルフメディケーション税制 |
|
上限 |
200万円まで |
8万8000円まで |
下限 |
10万円または合計所得金額の5%を超える金額 |
1万2000円を超える金額 |
セルフメディケーション税制とは・・・
「セルフメディケーション税制」という医療費控除の特例が、2017年1月からスタートしました。
セルフメディケーション税制は、「一定の取組」を行う納税者が、スイッチOTC医薬品を購入した場合に適用される所得控除です。
例えば、定期健康診断の一定の取組をしている会社員の方が、スイッチOTC医薬品となる風邪薬などを購入し、年間1万2000円を超えた場合、その超えた金額にその方の所得に対する所得税率をかけた金額が還付されます。
セルフメディケーション税制は、合計所得金額関係なく、1万2000円を超える金額が医療費控除の金額になります。
上限が8万8000円なので、従来の医療費控除と比べると厳しいものがあります。
しかし、スイッチOTC医薬品を年間10万円以上を購入するのはなかなかです。
さらにスイッチOTC医薬品は従来の医療費控除に加算することもできます。
年間の医療費とスイッチOTC医薬品をすべてまとめて所得税率の高い方が確定申告するのもいいですし、医療費をすべて医療費控除として利用しなくても所得税率の高い方のすでに納めている税金がすべて還付されるのであれば、残りのスイッチOTC医薬品は家族の別の方で還付金を受けとるのもいいですね!
医療費とスイッチOTC医薬品の選択方法の考え方はこちらになります。よかったらどうぞ~
>>スイッチOTC医薬品で医療費控除も可能?控除額の選択方法
結局、誰が申告するとお得なの?
結局、誰が申告するとお得なの?
ということですが、合計所得金額や所得税率の他にも医療費控除以外の「所得控除」や、計算された所得税の税額から直接差し引くことができる「税額控除」があるかないかで変わってきます。
つまるところ、誰がどんなふうに申告するとお得になるのかは実際に計算してみないとわからないということです。
夫で医療費控除をしたほうがいいと決め込まず、いろんな選択肢がありますので、「こうしたらお得になるかも」と計算してみるのもいいですよ。
従来の医療費控除とセルフメディケーション税制の計算速算表を参考に選択肢の幅を拡げてみてくださいね。
従来の医療費控除とセルフメディケーション税制の還付額は、医療費控除の金額と所得税率で計算できます。
医療費控除の計算速算表
従来の医療費控除の金額 |
||||||
10万円 |
25万円 |
50万円 |
100万円 |
200万円 |
||
所得税率 |
5% |
5000円 |
1万2500円 |
2万5000円 |
5万円 |
10万円 |
10% |
1万円 |
2万5000円 |
5万円 |
10万円 |
20万円 |
|
20% |
2万円 |
5万円 |
10万円 |
20万円 |
40万円 |
|
23% |
2万3000円 |
5万7500円 |
11万5000円 |
23万円 |
46万円 |
|
33% |
3万3000円 |
8万2500円 |
16万5000円 |
33万円 |
66万円 |
|
40% |
4万円 |
10万円 |
20万円 |
40万円 |
80万円 |
|
45% |
4万5000円 |
11万2500円 |
22万5000円 |
45万円 |
90万円 |
セルフメディケーション税制の計算速算表
セルフメディケーション税制の金額 |
||||||
1万円 |
3万円 |
5万円 |
7万円 |
8万8000円 |
||
所得税率 |
5% |
500円 |
1500円 |
2500円 |
3500円 |
4400円 |
10% |
1000円 |
3000円 |
5000円 |
7000円 |
8800円 |
|
20% |
2000円 |
6000円 |
1万円 |
1万4000円 |
1万7600円 |
|
23% |
2300円 |
6900円 |
1万1500円 |
1万6100円 |
2万240円 |
|
33% |
3300円 |
9900円 |
1万6500円 |
2万3100円 |
2万9040円 |
|
40% |
4000円 |
1万2000円 |
2万円 |
2万8000円 |
3万5200円 |
|
45% |
4500円 |
1万3500円 |
2万2500円 |
3万1500円 |
3万9600円 |
まとめ
1年間の医療費がかさめば、確定申告の医療費控除で、すでに納めた税金を少しでも多く還付金として受けたいものです。
しかし、いったい家族の誰が申告するとお得になるの?
医療費控除でお得になる3つの判断基準
1.所得税率の高い人が医療費控除をすると有利である
2.医療費控除額が少ない場合は合計所得金額の少ない人が有利な場合がある
3.年間の医療費自己負担額が210万円を超えたら、210万円を超える医療費額を他の所得納税者が確定申告する
基本はこの3つの考え方で家族の誰が医療費控除の申告するとお得になるのかを導き出してください。
ただし、合計所得金額や所得税率の他にも医療費控除以外の「所得控除」や、計算された所得税の税額から直接差し引くことができる「税額控除」があるかないかで変わってきます。
つまるところ、誰がどんなふうに申告するとお得になるのかは実際に計算してみないとわからないということです。
これを機に、自分自身の給与からどのように所得税の金額が計算されるのか知ることもいいですね。
2017年から始まるセルフメディケーション税制についての記事もどうぞ
>>セルフメディケーション税制とは?知識ゼロからでもわかる完全マニュアル
>>セルフメディケーション税制は人間ドック等の一定の取組が必要!
>>スイッチOTC医薬品は商品名で選んではダメ!決め手は成分の有無
>>セルフメディケーション税制で確定申告!所得で異なる節税効果
>>スイッチOTC医薬品で医療費控除も可能?控除額の選択方法
>>セルフメディケーション税制と医療費控除!併用ダメなら分けるのは?
>>セルフメディケーション税制で確定申告初心者増加!申告会場大混雑!
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