こんにちは。ひちです。
「資格取得費用やスーツ代が経費になる!」
この制度を知ったのは2012年(平成24年)の税制改正でした。
サラリーマンの節税は医療費控除やふるさと納税くらいしかないと思っていたところに新たな節税制度ができたぁ!
資格取得費用も節税の対象になるなんてやったぁ!!
な~んて一瞬喜んだ自分が情けない。
この節税制度は「特定支出控除」といって、昔からあるのにあまりにも誰も使わないから使ってもらうために条件をゆるくしただけ。
しかも条件をゆるくしたところで一般のサラリーマンにはまだまだ使いにくいんです。
ハードル高過ぎなこの特定支出控除という節税制度は一体何のために作ったのか?
ホントにききたい!
サラリーマンの為の節税制度である特定支出控除がどうして資格取得費用も対象なのにみれないのか、理由をお話致します。
特定支出控除とは?
まずは、そもそもどんな制度だったのかを確認しましょう!
1978年(昭和62年)、特定の支出の負担を余儀なくされるサラリーマンの負担を考慮するものとして創設されました。
サラリーマンが負担を余儀なくされるような特有の支出の額(会社が出してくれず自己負担した支出の額のことです)が給与所得控除額を超えるときは、その超える部分の金額を所得から控除して税負担を軽くしますよという趣旨の制度です。
従って、その範囲もサラリーマン特有の支出として限定的なものとなっています。
対象となる支出は以下の5つになります。
1 通勤費・・・一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
2 転居費・・・転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
3 研修費・・・職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
4 資格取得費・・・職務に直接必要な資格を取得するための支出
5 帰宅旅費・・・単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
さて、ここで疑問。
「給与所得控除を超えるとき」ってどんなとき?
そこを説明いたします。
給与所得控除とは
給与をもらうサラリーマンの話の前に、事業をされている個人経営者の方の場合の話をします。
事業は、事業収入から収入にかかる経費を差し引いて事業所得が計算されます。
その事業所得に各種所得控除を差し引いて課税される所得が計算され、そこに所得税率をかけることにより、所得税の税金が計算されます。
①事業収入(売上など)ー収入にかかる経費(仕入や店の家賃など)=事業所得
②事業所得ー各種所得控除=課税される所得
③課税される所得×所得税率=所得税額
サラリーマンの収入は給与収入です。
①のように事業収入から差し引く経費は給与収入にはありません。
でも、会社で働くのに何の費用もかけていないかといったらそうではありません。
例えば、制服は会社から支給されても制服のクリーニング代は自腹だったり、仕事の効率を向上させる為に資格取得する費用も自腹だったりするわけです。
サラリーマンだって給与収入を得るためにいろんな費用を使っているよね?
それをざっくりと引いてあげましょう!
というのが、給与所得控除です。
※諸説あるようですが、私はこの理由が一番納得いきます。
実際には何も費用を購入してなくても給与収入から給与所得控除という名の費用を差し引くことでサラリーマンの給与所得が計算されます。
給与所得控除は給与収入の金額によって違います。
【平成29年分の給与所得控除の計算表】
給与収入(A) | 給与所得控除 |
180万円以下 |
A×40% 65万円に満たない場合は65万円 |
180万円超 360万円以下 |
A×30%+18万円 |
360万円超 660万円以下 |
A×20%+54万円 |
660万円超 1,000万円以下 |
A×10%+120万円 |
1,000万円超 | 最高220万円 |
給与収入の金額が、年間400万円の方の給与所得控除は
400万円×20%+54万円=134万円です。
給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引くので
400万円ー134万円=266万円です。
給与所得控除は個人経営者の方の①の経費にあたる部分になります。
言い換えるとこうなります。
①給与収入-給与所得控除=給与所得
②給与所得ー各種所得控除=課税される所得
③課税される所得×所得税率=所得税額
個人経営者の方は、経費にお金を使っているのに、サラリーマンはお金を使っても使ってなくても給与所得控除という名前の経費が給与収入から差し引かれて所得税の計算がされるのです。
従って、給与収入400万円のサラリーマンの方は、何もしていなくても給与所得控除の134万円はすでに優遇されているわけです。
その給与所得控除134万円を超える一定の経費についてさらに控除しますよというのが「特定支出控除」になります。
特定支出控除の利用者は?
全サラリーマンが約5,553万人(2013年統計局 雇用者数)いる中で特定支出控除の利用者は次のとおりです。
平成15年 10名
平成16年 9名
平成17年 13名
平成18年 9名
平成19年 7名
平成20年 6名
平成21年 9名
平成22年 3名
平成23年 4名
平成24年 6名
1000万人に1~2名しか利用していないということになりますね。
少なっ!!
そりゃそうです。
給与収入400万円のサラリーマンが、給与所得控除134万円を越える金額を通勤費や資格取得費を年間使えるわけがありません!
これが特定支出控除が使えない理由の1つです。
2012年(平成24年)の税制改正でどう変わったの?
具体的な改正ポイント2つあります。内容は次のとおりです。
1. 特定支出の範囲の拡充……弁護士、公認会計士等の資格取得費用、書籍費、被服費、接待交際費を追加
2. 適用基準の見直し……適用基準額を「給与所得控除額」から「給与所得控除額の2分の1」(1,000万円超の場合は110万円が最高額)に変更(図表1参照)
図表1 特定支出控除の適用基準額
平成28年分以降より
その年中の給与等の収入金額 | 適用基準額 |
一律 | その年の給与所得控除額×1/2 |
特定支出の範囲の拡充
2013年分(平成25年分)から特定支出の範囲を拡大しました。追加された特定支出は資格取得費、勤務必要経費です。
資格取得費はもともとありましたが、直接職務に必要であることが条件でした。
そこに弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費用が追加されました。
勤務必要経費とは、職務に通常必要な交際費、職務に関連のある図書の購入費用などになります。
詳しくはこちらになります。
特定支出控除の範囲(平成25年分より)
1 通勤費・・・一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出
2 転居費・・・転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
3 研修費・・・職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
4 資格取得費・・・職務に直接必要な資格を取得するための支出
※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。
5 帰宅旅費・・・単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
6 勤務必要経費・・・次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの
(1)図書費・・・書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
(2)衣服費・・・制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用
(3)交際費・・・交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
適用基準の見直し
適用判定の基準が給与所得控除額の2分の1に緩和されました。
平成24年までは給与所得控除額の全額を越える特定支出でしたのでかなり緩和されたと言えるでしょう。
年収400万円の所得控除額は 134万円ですので、平成24年分までは134万円を越えなければならなかったところ、その2分の1の67万円を越えれば対象になります。
それでも年間67万円超えとは・・・
資格取得にそんなに費用がかけられません。
まだ、ハードルが高く感じるのは私だけでしょうか?
平成24年税制改正で条件が緩和されて平成25年分の特定支出控除の利用者はなんと260倍に増えました!
平成26年 1,978名
平成27年 1,845名
ま、もとが1ケタだから「へぇ~」って感じですけど(笑)
サラリーマンの数は約5,500万人ですからね!
30万人に1人が利用したということですよ。
そして、平成28年度の特定支出控除利用者が発表されましたので、お伝えしますね。
平成28年 1,522名
平成27年と比べて323名の減少です。
平成28年特定支出控除の内訳は
「研修費」506名
「資格取得費」494名
「通勤費」452名
「その他」70名
このまま、改正前の1桁の人数になっていかないか心配ですね。
特定支出控除が使いにくい理由はもうひとつあります。
それは、会社に認めてもらわなきゃならないことです。
国税庁HPの「給与所得者の特定支出控除に関する証明書」を印刷して会社の上司に
「私、特定支出したので、『給与所得者の特定支出控除に関する証明書』の書類を書いてください。」
って・・・・・
言いにくいわ!
本当に特定の方しか活用できない節税制度です。
まとめ
1978年(昭和62年)に創設された特定支出控除は、サラリーマンが負担を余儀なくされるような特有の支出の額が給与所得控除額を超えるときは、その超える部分の金額を所得から控除して税負担を軽くしますよという趣旨の制度です。
対象となる特定支出は以下の5つになります。
2 転居費
3 研修費
4 資格取得費
5 帰宅旅費
2013年(平成25年)からの変更点は2つです。
①特定支出控除の範囲の拡大(資格取得費用の拡充と勤務必要経費の追加)
②適用範囲基準の見直し(給与所得控除の1/2を超える支出)
もし、条件がそろってもそれを証明する書類に会社からのお墨付きが必要だということ。
サラリーマン節税対策といわれる特定支出控除
本当に特定の人の資格取得費用しかみれない理由はそこにあります。
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